group-1030540_640.jpg 
(イメージです。)


1
:2016/05/22(日) 18:15:25.75 ID:
「ヘイト・スピーチ解消法案」の意義と問題点/包括的な人種差別禁止法の制定を

5月13日、日本の参院本会議にて、いわゆる「ヘイト・スピーチ解消法案」(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」。以下、「本法案」)が自民党・民進党・共産党などの賛成多数で可決された。今後、本法案は衆院に送られ、今国会で成立する見込みだという。

手放しで喜べぬ

日本政府は1995年に人種差別撤廃条約(以下、「条約」)を批准しており、本来であればその際に、条約の精神に沿った反人種差別法を整備するべきであった。にもかかわらず、条約批准後20年以上が経っても、日本において反人種差別法は制定されず、それゆえ在日朝鮮人に対する差別をはじめとした人種差別が野放しになってきたのである。本法案は、成立すれば日本で初めての「反人種差別に関する理念法」として、小さくない意義を有するといえるだろう。とりわけ、反動的な安倍政権下で反人種差別に関する法案が実現する見込みにまで至ったことは、排外主義者らによる朝鮮学校への差別・暴力に抗してたたかってきた同胞や支援者ら、国際人権機関に在日朝鮮人や朝鮮学校差別の実態を知らせ、人種差別禁止法の制定をはじめとする数々の勧告を引き出してきた人びと、また街頭で白昼堂々と叫ばれる在日朝鮮人や朝鮮学校への差別・暴力の煽動に反対して声を上げてきた人びとによる必死の努力なしには考えられない。日本から人種差別をなくすため、様々なリスクもいとわず尽力されてきたすべての方々に、心から敬意を表したい。

しかしながら、本法案は問題点も多分に含んでおり、手放しでは喜べないというのが筆者の率直な意見だ。第1に、差別の形態が「不当な差別的言動」に限定されているため、その他の様々な人種差別(入管法制上の処遇や民族学校への処遇などの制度的差別、入居差別・就職差別などの社会的差別、植民地支配や戦争被害者に対する賠償・原状回復義務などの不履行による差別など)の根絶に向けた日本の国・地方公共団体の責務が定められていない。昨年5月22日に野党議員によって提出され、今年5月12日の参院法務委員会で否決された人種差別撤廃施策推進法案(以下、「野党案」)は、差別の形態を「その者の人種等を理由とする不当な差別的取扱い」と本法案よりも広くとらえていたため、野党案からも大幅に後退したと言わざるを得ない。

第2に、差別の対象が条約と合致していないため、対象に含まれないマイノリティに対する差別を助長する危険性をはらんでいる。条約及び野党案は人種差別を「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身」に基づく差別と定めているにもかかわらず、本法案はその対象を「専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの」と限定しているため、対象から除外される非正規滞在者やアイヌ民族、被差別部落、琉球・沖縄などのマイノリティに対する差別・暴力の煽動に対処できない。

第3に、上記のように差別の形態・対象をかなり狭く限定しているにもかかわらず、当該差別行為を「禁止」すらしていない。本法案には、日本政府が取り組むべき具体的な施策も、財政措置も、審議機関も明記されていないため、実効性があまりにも弱いと言わざるを得ない。

日本政府は襟を正せ

このように考えると、本法案は日本政府が条約上負っている義務である「人種差別を撤廃する政策…をとる」(条約第2条)こととはほど遠く、マイノリティ間の分断すら生む危険性があるため、仮に成立したとすれば、上述した問題点を克服すべく法の改正を求めるのと同時に、包括的な人種差別禁止法の制定を求めていく必要がある。

言わずもがな、日本政府は上から目線で下々の排外主義者を諭すのではなく、まず自らの襟から正すべきであろう。「高校無償化」制度からの朝鮮学校除外や地方自治体に対する補助金「通知」発出など、在日朝鮮人や朝鮮学校を「地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」(本法案第2条)を行っているのは、他でもなく日本政府自身なのだから。

(金優綺・在日本朝鮮人人権協会事務局)
http://chosonsinbo.com/jp/2016/05/0520ib-2/